デュプレックスという発想。

本日も、

ケンズレールロードに

お越しいただきまして

ありがとうございます。

 

学生時代に

自動車のエンジンに

興味をもち

趣味の範囲内ですが

その機構について

知識を蓄えたことが

あります。

当時はちょうど、

エンジンの高性能化が

大きく進歩した時代でした。

カムシャフト2本を

エンジン頭部に配置する

「DOHC(ダブルオーバーヘッドカム)」や、

一気筒あたりに

吸気用と排気用、

それぞれ2つずつのバルブ(弁)を

装備する

「4バルブ」方式(それまでは2バルブ)が

一般車のエンジンにも

搭載され始めた時代です。

さらには、

タービンやスーパーチャージャーなど

混合気をシリンダー内に

過給するシステムも

盛んに開発されました。

ついには、

この3種を同時に搭載する

DOHC4バルブターボエンジン

が登場し、

ポーカーの

ロイヤルストレートフラッシュを

完成させたかのごとく

熱狂したものでした。

 

さて、

これらの手法は全て、

主にエンジンのパワーアップが

目的です。

広義の「パワー」には

馬力(hp)という単位に代表される

出力と

回転する力である

トルクの2種類が

あります。

前述しました

DOHCと4バルブ化は

主に出力を、

ターボなどの過給器は

主にトルクを増大させます。

軸の回転で

力を取り出す機械の場合

出力は

その回転数にほぼ比例して

大きくなってゆきます。

つまり、

エンジンの回転数を

高速まで伸ばすことができれば

最高出力は単純に

大きくできるわけです。

 

ただ、それまでの一般用

自動車エンジンは

機構的に

高回転域に不向きでした。

この問題を解決する手段こそが

DOHC化でした。

それまで一本で

吸気用バルブと

排気用バルブの両方を

開閉させていたカムシャフトを

吸気、排気それぞれ専用に

一本ずつ

計2本とすることで

高回転域での

バルブ開閉タイミングのずれを

抑制したのです。

また、

バルブを一気筒あたり2つから

4つにすることで

空気が出入りできる

面積を拡張し、

高回転域での

吸排気抵抗を

軽減しました。

さらには、

このバルブの軽量化や

ピストンストロークの

短縮化も

高回転性能を

高めます。

 

これらの技術進化によって

200馬力、300馬力という

それまでは

見たことも無いような

高出力の数字が

カタログで見られるように

なったわけです。

 

さてさて、

こんな話が

鉄道と何の関係が?

と、お思いのことでしょう。

前置きがかなり長くなって

しまいましたが、

ここからが本題です。

 

経済成長が著しかった

19世紀後半から

20世紀の半ば、

北米では、

とにかくより大量の

物資や旅客を輸送することが

鉄道の使命でした。

そのために必要であったのが

機関車のより大きな「パワー」

であったわけです。

 

より強大なパワーを得るために

車両実験を一番多く行った鉄道会社は

ペンシルバニア鉄道であると

言われています。

その中の一つに

ペンシルバニア鉄道が注力した

デュプレックス化技術があります。

 

蒸気機関車の

出力を大きくする手法には

大きく分けて2種類があります。

その肝は

冒頭に車のエンジンで

お話したことと

全く同じなのです。

ボイラー(燃焼室)を大きくして

火力をより高め

より高温高圧な水蒸気を

生み出すこと。

これによって

ピストンを押し出す力が

高まり、

車輪はより大きなトルクを

発生します。

 

そして、もう1つは

バルブギア方式を含め

ドライバー(動輪)の

高回転域性能(効率)を

高めること。

バルブギアは、

シリンダー内で

高圧蒸気が出入りする

バルブタイミングを

制御する機構で

いくつかの方式があります。

自動車エンジンで言うと

カムシャフトと

役割が同じです。

そして、

蒸気機関車の足回りを

高速対応させる技術こそが、

「デュプレックス(Duplex)」

なのです。

 

ドライバー8輪を

連続的に直列させた

4-8-4に代表される

ホイールアレンジメントと異なり、

8輪を前後4輪ずつに分け

2輪ずつを計4基のシリンダーで

駆動させる方式、

これがいわゆる

デュプレックススタイルです。

外観からは一見

アティキュレート型に見えますが、

前後の動輪群は

リジッド(固定)であるため

アティキュレートには

なりません。

リジッドタイプの最終進化形

とも言われる

4-8-4を抑え

過去に一番大きな出力を

叩き出したのが

このデュプレックス型です。

 

では、

「デュプレックス」の

高回転対応の秘密は

どこにあるのでしょう。

それは、

4基のピストンが

それぞれドライバー2輪のみを

受け持つメリットです。

シリンダーの小型化、

ピストンストロークの

短縮化が可能となり、

さらに、

ロッド類などの回転に関わる

パーツを軽量化できることなどです。

これら全ては高回転域で

その威力を発揮します。

 

デュプレックスには、

6-4-4-6のS-1に始まり、

4-4-4-4のT-1第一世代、

4-6-4-4のQ-1、

4-4-6-4のQ-2、

そして、

4-4-4-4のT-1第二世代と、

5機種にわたる変遷があります。

中でも、

一番多く製造され運行されたのが

T-1第二世代機になります。

「スリップし易い」、

「停止からの立ち上がり性能が悪い」、

などといううわさもなんのその、

圧倒的な高速性能で

花形列車を

見事に牽引して見せたのでした。

 

冒頭にお話しました

自動車用エンジンでは、

その後

各技術が熟成され

現在も活躍し続けています。

では、デュプレックス技術は

その後

どうなったのでしょう。

50両を超えるT-1機(第二世代)は

1945年から1946年にかけて

2箇所(PRRとボルドウィン)で

製造されましたが、

その殆どが

1952年から1953年に

登録を抹消され(一部1956年)

スクラップ化の道を

たどりました。

優秀な性能で名を馳せながら

その10年にも満たない生涯。

T-1さえも勝てなかったもの・・・、

それは時代、

そう、

圧倒的な維持管理のし易さと

コストパフォーマンスに優れる

ディーゼル化の波だったのです。

太くて短い・・・、

散り際のよいデュプレックスの歴史は

今の桜の時期に

ピッタリなのかもしれませんが

少し寂しい気持ちもしますね。

 

それではみなさま、

また次回までさようなら(^0^)/