Nゲージの専門誌「N Scale Railroading」の
2015年1月2月号でお気付きの方もおられた
ことでしょう。 見慣れない重量級キャブディーゼルの
3重連がリアルに作製された雪で真っ白の山間部の
レイアウトの中で登坂しています。
これが1961年、アメリカ大陸に初上陸した
ドイツのクラウス-マッファイ製ML4000です。
1950年代後半ともなると、大量輸送にかかわる
鉄道の果たす役割が急伸し、各鉄道会社は
長編成の貨物列車を牽引できるハイパワーディーゼル
機関車の獲得に躍起になっていました。
特に山間部の路線を有する鉄道会社では、
その競争が激化。
ロッキー山脈を主要路線にかかえる
サザンパシフィック鉄道(SP)とユニオンパシフィック鉄道(UP)
は路線エリアもかぶっていてまさにライバル関係
にありました。 1959年にUPが2000馬力の
EMD製GP9、GP20を調達したことを確認後、
SPは3540馬力(1770馬力2基搭載)の
ML4000の輸入に踏み切りました。
さてクラウス-マッファイですが、この会社は
第二次大戦中、各種の軍事用車両も
製造していました。 実は私、中学時代に
タミヤ製の1/35ミリタリーシリーズに没頭
していまして、大型キャタピラー式兵員輸送車
、通称8トンハーフトラックに憧れていました。
車両の正式名称は「Sd.kfz.7」。
ML4000はこの会社が製造しました。
「Sd.kfz.7」のエンジンはマイバッハ製
ですが、実ML4000に搭載されていた
2基のV型16気筒エンジンもマイバッハ製。
機関車に搭載されているエンジンなどの
動力源のことを「プライム・ムーバ―」と
呼びますが、それが出力1770馬力の
「Maybach MD870 V16s」
という形式のディーゼルエンジンです。
ちなみに、戦時中その高性能ぶりで
世界的に恐れられたドイツのタイガー戦車
(正式にはティーガ―Ⅰ式、ティーガ―Ⅱ式)
の心臓もマイバッハ製です。
ML4000のディーゼル種として、たいてい
「Diesel-Hydraulic(ディーゼル-ハイドロ―リック)」
という記載があります。
実はディーゼル機関車の駆動形式には
大きく以下の3種があります。
1.ディーゼル-メカニカル
2.ディーゼル-エレクトリック
3.ディーゼル-ハイドロ―リック
ディーゼルメカニカルはディーゼルエンジンの
回転トルクを単純に機械式伝達機で文字通り
メカニカルに駆動輪に分配します。
ディーゼルエレクトリックはアメリカでは
「エレクトロモーティブ」とも呼ばれ
(そうEMDのElectro Motiveです)
エンジンは発電のみに使用され、
駆動輪に伝達されるのは、発電された
電気で回転する車載モーターのトルクです。
そして、最後のディーゼルハイドローリックは
エンジンの回転トルクは使用するのですが、
駆動輪との間に、粘性流体を使用した
トルクコンバーターが伝達機として介在
しているのです。 ハイドロ―リックとは
この「流体」の意味です。 そうです、
かつて日本で乗用車がマニュアル式から
オートマティック式に変遷したとき、
「ノンクラ」とか「オートマ」とか、ときに
「トルコン」と呼んでいました。
この「トルコン」がまさに流体を使用した
トルクコンバーターのことなのです。
当時アメリカでML4000を導入したのは
D&RGW(デンバー&リオグランデ・ウェスタン)と
サザンパシフィックのみです。
D&RGWが3両、SPが導入時3両(キャブ型)、二度目の
発注で15両(フード型)です。 D&RGWは後に
使い難いという理由で、購入した
3両を結局SPに売却したように聞いています。
当時のSPはディーゼルとしてF7やGP9、
そして当時最強と言われた2400馬力の
H-24-66(フェアバンクス・モース製)
通称「トレインマスター」が主力でした。
そしてML4000が2基とはいえ
3540馬力。
けれども少なくとも今これをお読みの皆様、
この馬力差を鵜呑みにしないでください。
実は、ハイドロ―リック式にはその弱点
として変換効率の低さがありました。
つまり、エンジン出力と駆動輪出力には
大きな違いがあったわけです。 少なくとも
当時は伝達損失の大きな方式だったのです。
参考値として、当時のディーゼルエレクトリックの
変換効率は85%程度、それに比べて
初期のディーゼルハイドロ―リックのそれは
60%程度と言われていたのです。
かつて日本において、自動車の出力表示が
グロス表示からネット表示に変更された時代
がありました。当然現在は注意書きが無ければ
駆動系を介した後のネット出力表示です。
それまでは、エンジン自身のみの出力、つまり
グロス表示だったのです。
これまで書いてきたディーゼル機関車の出力は
全てエンジン単体のグロス表示のはずです。
例えば2000馬力のEユニット(ディーゼルエレクトリック)
であっても駆動輪から発生する実馬力は1800馬力
程度でしょう。 そしてML4000、仮に伝達効率が
60%程度だとすると、実馬力は2千と数百馬力。
ML4000の正確な伝達効率のデータはわかりませんが、
少なくともグロス表示の3540馬力-2000馬力=
1540馬力!….ほどの実力差は無かったと考えられます。
このML4000、アメリカ国産エンジンが出力で
追いつき始めた60年後半から、次第に姿を
消してゆきます。
何かフェアバンクス・モース機たちの運命と
似たところを感じますね。
それでは皆様、また次回までさようなら(^0^)/