さて、前回は日本語で言う「関節型」蒸気機関車には
マレー(Mallet)型とアティキュレイティッド(Articulated)型
の2種が存在することをお話しました。 実はマレー型
について重要なポイントを1つお話するのを忘れて
しまいました。 マレー型の特徴として、蒸気のリサイクル
機構からくるフロントとリアのシリンダーサイズの違いを
お話しました。もう一つの特徴として、フロントとリアの
動力ユニットのシャシーに対する固定方法の違いが
あります。 マレー型はリアの動力ユニットはボイラーを
乗せたシャシーに固定(リジッド)されていて、首を振るのは
フロントの動力ユニット(低圧シリンダーユニット)だけなのです。
これは、シリンダーサイズのように外観からはわかりずらい
ポイントです。
そういう意味においても、やはりマレー型はいわゆる「関節」
を表すアティキュレイティッド(自由度のある2つ以上の部位が
自由度のあるジョイントにより連結された状態)とは異なって
います。 アメリカにおいても、マレー型を含めてアティキュレイティッド
と総称されがちですが、専門家はきちんと区別しています。
しかし、どうもこのマレー型とアティキュレイティッド型を合わせた
総称が無いらしいのです。 後でも出てきます動力ユニットが
3つある蒸気機関車は「トリプレックス(Triplex)」と呼ばれて
います。 ですので動力ユニット2つの総称を「デュプレックス(Duplex)」
と言えばいいように思うのですが、実は「デュプレックス」と言えば
ペンシルバニア鉄道(PRR)の4-4-4-4型T1蒸気l機関車を
はじめとするデュプレックスドライブ型(T1,S1,Q1,Q2など)
のことと相場が決まっているので、混同してしまいます。
まっ、とにかく異なるシリンダーによって駆動力を得ている
2つの動力ユニットをもつ蒸気機関車(長ったらしくてすみません)
には「マレー型」と「アティキュレイティッド型」そして「ペンシー型」
(デュプレックスドライブ)があるわけです。
前置きがえらく長くなってしまいましたが、そもそも
今回はこの多重駆動ユニット型(無理やりこう呼んでしまいました)
の実際の機関車を紹介したかったわけなのです。
以下に、鉄道模型界で主要な(人気の?)蒸気機関車たち
を12種類(車輪構成で)をご紹介いたします。
順番は総車輪数の少ない方から始めたいと思います。
1. 2-6-6-2 タイプ
このタイプはおそらく北米で一番古い時代のマレー型
であると思います。 サザンパシフィック鉄道などでは
「マレーモーガル(Mallet Mogul)」などと呼ばれているようです。
一番有名で各ゲージで必ずモデル化されているのが
C&O鉄道(チェサピーク・アンド・オハイオ)のHシリーズ
(クラスH1~H6)です。 もちろん、サンタフェ鉄道(ATSF)、
ニューヨークセントラル鉄道(NYC)、グレートノーザン鉄道
(GN)などにも配備されていました。 Alco社やBaldwin社
によって製造されたのがおおよそ1905年くらいから
1920年ごろです。
2. 2-6-6-4 タイプ
Nゲージではまだお目にかかったことがありませんが、
HOやOではお馴染みのN&W(ノーフォーク・アンド・
ウェスタン鉄道)の「クラスA」がこのタイプです。
1930年代あたりに製造されたこのタイプは
既にマレー型ではなくアティキュレイティッド型
に進化していたようです。
3. 2-6-6-6 タイプ
このタイプと言えば泣く子も黙る?「アラゲイニー
(Allegheny)」はビッグボーイと共にかなり有名です。
このタイプはC&O鉄道でのアラゲイニー
(ライマ社(Lima)製造クラスH-8)が一般的ですが、
実はライマ社はバージニアン鉄道(VGN)にも
このタイプを納入しており、そこではクラスAG
、「ブルーリッジ(Blue Ridge)」と呼ばれていました。
一時、このアラゲイニーはビッグボーイと
北米大型ナンバーワン競争をしたことが
あります。 確かに総重量や総車輪数などは
ビッグボーイに軍配があがりますが、
最大出力(馬力)はビッグボーイの
約1.2倍(約7500HP)もあったと言われて
います。 性能的には約160キロでの
高速運行も可能で、ビッグボーイを軽く
置き去りにできたのですが、実際に投入
された地域ではスピードよりもパワーによる
総牽引貨車数が重要視され、俊足性能は
宝の持ち腐れ状態だったようです。
もちろんこの人気H-8型はN、HO,Oの
各ゲージでモデル化されています。
4. 4-6-6-2 タイプ
4つの先輪を持つ6-6型は主に高速運行用
でしたが、ボルドウィン社は主に4-6-6-2を、
アルコ社は主に4-6-6-4を製造していたそうです。
この4-6-6-2型で有名なのはボルドウィン製
キャブフォワードのAM-2型とMM-2型です。
一般には4-8-8-2型のキャブフォワードが
表に出るわけですが、1900年台初頭には
サザンパシフィック鉄道はこれら4-6-6-2型の
キャブフォワードを運行させていました。
調べてみると確かに少なくともAM-2型が
HOゲージで製品化されています。
5. 4-6-6-4 タイプ
ご存じアルコ社製ユニオンパシフィックの
「チャレンジャー」が筆頭にあがるのですが、
4-6-6-4タイプは何もユニオンパシフィックの
専売特許ではなく、デンバー・アンド・リオグランデ・
ウェスタン鉄道(D&RGW)でも活躍し、また、
ノーザン・パシフィック鉄道(NP)の
Z-6型、Z-7型、Z-8型も有名で
もちろんHO,Oゲージでは製品化されています。
6. 2-8-8-0 タイプ
このタイプにはマレー型多く、サンタフェ鉄道では
コンソリデイション・マレー(Consolidation Mallet)、
グレートノーザン鉄道ではブル・ムース(Bull Moose)
などと呼ばれたようです。 しかし、このタイプの
一番人気はビー・アンド・オー鉄道(B&O)の
クラスELシリーズでしょうか。 EL-1から4を
飛ばしてEL-6まで存在します。 模型界では
ペンシルバニア鉄道(PRR)のクラスHC1sなども
見かけます。
7. 2-8-8-2 タイプ
このタイプは、C&O鉄道のクラスH-7が
有名で、「チェサピーク(Chesapeaks)」と
呼ばれることが多いと思います。 このタイプも
マレー型が多くサザンパシフィック鉄道(SP)
などでは「マレー・コンソリデイション(Mallet
Consolidation)」とも呼ばれたようです。
前項2-8-8-0の「コンソリデイション・
マレー」と混同しやすいですね。
このタイプはモデル化されている機種が
多く、ノーフォーク・アンド・ウェスタン鉄道
(N&W)のクラスY-3やY-6、
グレート・ノーザン鉄道(GN)の
クラスR-1,R-2、さらに
サザンパシフィック鉄道(SP)の
キャブフォワードであるクラスAC-1,AC-2,
AC-3なども多く製品化されています。
ユニオンパシフィック鉄道(UP)も
このタイプを所有していて、クラスは
「H-7」と表記されOゲージでよく目にします。
8. 2-8-8-4 タイプ
各ゲージで恐らく最も多く製品化されている
機種が、B&O鉄道の「EM-1」でしょう。
イエローストーン(Yellow Stone)と呼ばれる
このタイプは、各鉄道会社を合わせても
およそ70両余りで「EM-1」はその中でも
一番新しく製造された部類に入ります。
イエローストーン型ではこの他、ノーザン・
パシフィック鉄道(NP)の「Z-5」や、
サザン・パシフィック鉄道(SP)の「AC-9」
も人気です。 サザンパシフィック鉄道保有の
ACシリーズにはAC-1型からAC-12型まで
12種があるわけですが、この「AC-9型」のみが
キャブフォワードではなく、2-8-8-4イエローストーン
となっています。
9. 4-8-8-2 タイプ
このタイプは主にサザンパシフィック鉄道(SP)の
AC-4からAC-12型ボルドウィン製キャブフォワード、
合計190両余りが独占です。 もちろん、N,HO,Oなど
各ゲージで人気です。
10. 4-8-8-4 タイプ
もちろんユニオンパシフィック鉄道(UP)の
「ビッグボーイ(Big Boy)」がこのタイプです。
ビッグボーイは、1941年と1944年の
2回に分けてアルコ社(Alco)から納入されていて、
クラス名が異なり、それぞれ「4884-1」(20両)と
「4884-2」(5両)にわかれます。
どのゲージでも複数社が製品化しており、
北米大型蒸気機関車の代名詞となっていますね。
11. 2-10-10-2 タイプ
1911年にサンタフェ鉄道(SF)がマレー型として
「2-10-2サンタフェ型」2両から作りました。
マレー型時代、トラクション増大のため、初期の
6-6から8-8、そしてこの10-10へと
開発が進んだわけですが、実用的にはこの
2-10-10-2で打ち止めだったようです。
このタイプにはサンタフェ鉄道の他、
バージニアン鉄道(VGN)もアルコ製を「クラスAE」
として保有していました。
模型界ではサンタフェ鉄道の2-10-10-2のみ
HOゲージ、Oゲージで見かけます。
12. 2-8-8-8-2 タイプ
最後がこの「トリプレックス(Triplex)」です。
エリー鉄道(Erie:ERR)のボルドウィン製
「クラスP-1」が有名で、少なくともHOゲージでは
見かけたことがあります。
8輪の駆動ユニットが3つもあって、さぞかし
全長が長いのかと思ってしまいますが、
実は一番リア側の駆動ユニットは、
テンダーに設置されていますので、
全長は小さくおさえられています。
そういう意味では、「2-8-8-0」 +(プラス)
「8-2(テンダー)」と言った方がわかりやすい
のかもしれません。
お疲れ様でした、以上12種をご紹介いたしました。
こうした「多重駆動ユニット型」は山間部などの
急な曲線と急な勾配を走破するために
多くの鉄道会社で導入されました。
しかしながら、1950年前後より、性能と
維持費に断然優れたディーゼル型機関車に
よって徐々に置き換えられていったことは
ご存じのとおりです。
今回はかなり長くなってしまい申し訳ありません。
ご興味ございましたら、アルファベットで鉄道会社名と
クラス名または「4-8-8-4」などの車輪構成で
画像検索していただくと、実機や模型の画像が
ご覧いただけると思います。
それではみなさま、また次回までさようなら(^0^)/