北米鉄道の安全制御システムの現状 - PTCの全面運用と苦悩 -

 

本日もケンズレールロードに

お越しいただきありがとうござ

います。

 

以前にケンズタウンにてお知

らせ致しましたスケールトレイ

ンズ製の「GE Tier4 GEVo」

が4月に発売されました。

大変遅ればせながら今月中

にはその一部を発売させて

いただく予定です。

 

「ロードネームが6種で、

それぞれに6つのナン

バーがあるらしいねー」

 

うん、それだけでも36種類

あって、その上その全てにアナ

ログ仕様とサウンド付デジタ

ル仕様があるから全部で70

種を超えるんだよ (^o^;)

 

大変申し訳ないことなのです

が、残念ながらこの全種をお

届けすることが叶いません。

店頭販売されません製品に

つきましてはお取り寄せを

させていただきますので何卒

よろしくお願い致します。

 

「しゃーないで、おじちゃん

のお店はちっちゃいし 笑」

 

だからね、何を入荷させるか

すごく悩むんだよー 笑

 

さてさて、今回の製品でも

前回のビッグブローと同様に

非常に精密に再現されたディ

テールが話題です。

このシリーズには、ET44C4

(BNSF)、ET44AC(CN, NS,

Demo)、ET44AH(CSX)、

C45AH(UP)の4機種があり

外観が作り分けられていま

す。 台車、フロントドア(窓

の有無)、燃料タンク種、

屋上排気管形状などに種類

が存在します。

 

「めっちゃ手間なことしよんなー、

このメーカーは (^-^)」

 

うん、そこがこのメーカーの

こだわりなんだろうね(^^

 

機種によるその他の外観の違

いにキャブ屋根のアンテナ装備

があります。

スケールトレインズ製GE GEVo、キャブルーフのアンテナ装備の違い。 (ScaleTrains社ホームページより)

「手すりのつくりこみも

すごいけどアンテナ

の種類もすごいなー」

 

そうだねー。

ここは近頃のディーゼルの大

事なポイントだからねー。

 

「大事なポイント? 」

 

CSXとCNは普通のアンテナ

ドームだけれど、BNSFやUP

では「PTCアンテナ」って表記

されてるでしょ?

 

「PTCてなに? (^0^;) 」

 

これが現在の北米鉄道のキー

ワードなんだよ。

おじちゃんも良く知らなかった

から調べてみたよ。

 

「PTC」はポジティブトレイン

コントロール(Positive Train

Control)の略語です。

同じ略語が、ユニオンパシフ

ィック鉄道や日本の鉄道

(Programmed Traffic Control

列車運行管理システム)にも

ありますが、厳密には似て非

なるもののようです。

 

「PTC」は、統一規格のある

固有システムの名前ではな

く、列車の安全運行のための

新しい制御システムの総称と

考えたほうがよさそうです。

実は北米では、1980年代

からアムトラックとAlstomと

いう会社が新しい安全システ

ムを開発、運用途中です。

ところが、2008年に起きた

25人の死者を出すコミュー

ターレールでの大事故をきっ

かけに、安全運行システムに

関する世論の要望が沸き

あがり国が本格的に対応を

始めました。 そして、ついに

国会が全米の鉄道に対して

PTCの全面運用を決議した

のです。

これが「2008アクト(決議)」

或いは、「2008マンデート

(指令)」と呼ばれるものです。

 

「鉄道会社はめちゃ

たいへんやね。」

 

アムトラックと全米のショート

ラインを除いても80億ドル

(約8800億円)と総費用が

試算されている大規模改革

の命令にクラス1に属する

鉄道4社(BNSF,CSX,NS,UP)は

今、この指令を受けて大変な

状況にあります(現在の遂行

期限は2018年12月31日)。

 

「期限は今までに何回か

変更されたやんねー。」

 

一朝一夕にできる規模じゃ

ないからねー。

 

「PTC」の導入で目指すべき

目標は以下の4つとされてい

ます。

1.車両同士の衝突の回避

2.制限速度の履行

3.線路保安作業員の安全確保

4.ポイントの切り替えミスへの車両対応

(ミスのまま通過させない)

以上はいわゆる国会と世論が

求める内容ですが、事業者と

しての鉄道会社はこれに加えて

採算をとらなければならない

実情があるわけです。

「何かあった場合に車両を

安全に止めるシステムは

そう難しくない。 難しい

のはいかに車両を運行し

続けるか。」

とは、鉄道会社側の本音です。

安全のためだけなら、些細な

アクシデントでいちいち車両

を全面停止すれば済むわけ

ですが、これでは運送効率が

すこぶる悪くとても事業として

成り立たないからです。

 

さらに難しい点に、「相互運用性

(Interoperability)」があります。

鉄道会社の路線網はそれぞれ

独立しているわけではなく、

部分的にではあれ、主要な駅で

相互乗り入れをしています。

そのため、「PTC」を導入する際

には互いに無線などで相互連絡

を取り合えることが必要になりま

す。 このため、それまで使用し

ていた無線の周波数(160MHz帯、

44MHz帯など)から同一周波数

(220MHz帯)に統一しなければ

なりませんし、相互の機器間でも

運行情報の共有が必要になります。

また、全土のネイティブアメリカン

集落への電磁波被害の問題

も取り上げられているようです。

 

「きかいの周波数を切り替えたら

ええだけとちゃうの?」

 

切り替えなきゃいけない装置

類の数と手間が膨大でね。

トランスポンダー(送信機:トラ

ンスミッターと応答機:レスポン

ダーの合成語)と総称される

機器を全車両、全基地局、

線路沿いの全機器に対して

ハード、ソフト両面での新設

や変更処理をしなければいけ

ないんだよ。

 

全米で「PTC」に移行する

ためには、20,000を越える

車両、40,000のインターフ

ェース、10,000を超える

信号に対してなんらかの変更

処置が求められます。

ここに商機を見出そうとして

いる会社が、BNSFなどと

共同開発を行っている

Wabtec社です。 同社では

GPSをベースにした「I-ETMS

(Interoperable Erectronic

Train Management System)」

を推進し、BNSFと共にPTC化

で現在最も実用化が先行して

います。 他にアムトラックで

採用されている枕木にセンサー

を埋め込んで車両位置を把握

するシステムをもつAlstom社

や、Siemens社などもがんば

っています。

 

「いまはやりのGPSをつこた

ほうが簡単そうやね。」

 

新たに人工衛星が打ち上げ

られたり、スマホなんかでも

技術的にすごく進化してきて

いるからね。

 

運行管理では個々の車両位

置の検出は必須です。

やはりアメリカの広大な国土

を考えると全線路への機器の

埋め込みは大変かもしれませ

んが、ネットワークの防災、防

衛では有利な面もありますね。

 

国民の安全に対する悲痛な

叫びを背景にした国の施策と、

安全を第一にしながら利益の

上がる効率的な輸送を目指す

鉄道会社、それに巨大な新規

事業を獲得したい関連会社の

思惑が渦巻く「PTC」周辺の

現状です。

国の指令を満たすための

「PTC」周辺整備にかかる費用

に対して、鉄道会社が受け取れ

るメリット(費用対効果)は現在

のところ22対1との試算があり

ます。

また、これまでのPTC関連の

整備では、鉄道会社によっても

異なりますが、1マイル(1.6km)

ごとに20,000ドル(約220万円)

を超える費用が発生している

報告もあります。

私が調べた資料(トレインズ

マガジン記事)では、

「国と世論が納得するかたちで

鉄道各社がいかにビジネス

としてPTCを意味(価値)ある

ものとしてゆけるかが問われ

ています。」

と締めくくられていました。

 

「やねのアンテナに

これだけふかいはなし

があるとは思わへん

かったわ(^o^)」

 

そんなこともあって、鉄道

模型でもキャブルーフの

アンテナ種は楽しめるアイ

テムとしてなくてはならない

ものになったね (^o^)

 

かつて、あれだけあった

鉄道会社の代表として、

また数多くの鉄道ファン

のため、そして二度と悲惨

な事故を起こさないため

にも、現存する鉄道会社

にはなんとかこの苦境を

見事に乗り越えて欲しい

と心から思っています。

 

それではみなさま、

また次回までさようなら (^0^)/