車輪をすべらせないために・・・。

 

 

 

本日もケンズ鉄道にご乗車いた

だきありがとうございます。

 

ここのところ、EM-1やガー

ラット式のお話で、山岳路線

での使いやすさの話をしてき

ました。

 

「車りんを空回りさせへん

ようにするむずかしさ

の話やったね (^^ 」

 

そうそう、それそれ。

 

鉄道では、レールも車輪も金属で

できているため、ゴムタイヤでアスフ

ァルトを走る車よりもずっと車輪が

滑りやすい宿命をもっています。

今日は、そんな車輪の滑りやすさ

を少し具体的に紐解いてみます

ね (^^

 

鉄道がすべりやすいといっても、

ブレーキをかけて止まっている

機関車が、上り坂で勝手に下

に滑り落ちてしまうわけでは

ありませんね。 これは、レールと

機関車の車輪の間に「摩擦」と

いう抵抗があって、滑り落ちるの

を防いでいるわけです。

けれども、この上り坂の角度を

どんどん大きくしていくと、どこか

で機関車は滑り落ちてしまいま

す。 これは、鉄道模型でも

全く同じことです。

そして、この滑り落ちるときの

坂の度合いを少し意識してみ

ると、車輪にトラクション向上の

ためのゴムや樹脂リングをつけ

ている機関車のほうが、急坂

でもなかなか滑り落ちにくいこと

がイメージしていただけると思い

ます。

これはどういうことなのでしょうか。

 

「んー、・・・ゴムをつけたほうが

まさつが大きい・・・から???」

 

おおおー、大正解だよ! (^^

じゃー、もう少しそれを詳しく

話してみるね。

 

床の上に重さ10キロの米袋を

置いて紐を付けて引っ張る様子

を式を使って考えてみます。

この米袋に少しずつ力を入れて

引っ張り始め、動き始める直前

の力を「F」とすると、

F=μ×N

となり、「F」は「μ」と「N」の掛

け算の関係になることがわかって

います。

 

「わわわっ、出たー (>_<)」

 

大丈夫、難しそうに見えるのは

文字のせいで、表していることは

すぐにわかるようになるからっ! (^o^)

 

「N」には垂直抗力という難しい

名前がついていますが、これは

床に置いた10キロの米袋を

床が支えている力です。

 

「えええー、ほらわからへんように

なってきたー (>_<)」

 

じゃーねー、この米袋を

腕にかかえてもってごらん。

 

「よいしょっと・・・。

わー、おもいおもい (^o^)」

 

はい、もったままじっとしてー!

今、腕には力を入れて米袋が

落ちないように支えているでしょ?

腕に感じているその力が「N」ですっ! (^0^)

床に米袋を置くと、実は床は

君が今感じているその力で

床にめり込んでしまわないように

米袋を持ち上げている(支えて

いる)んだよ。 その力を垂直

抗力と呼んでいるんだよ。

ねっ、名前が難しいだけでしょ?

 

「なるほど、Nはわかったわ。

もう米袋下ろしてかまへん? (^^; 」

 

あぁ、いいよー (^^

でね、この「N」と引っ張る力

「F」の関係を決めているのが

「μ(ミュー)」なんだよ。

 

「なんでいちいち、わけの

わからへん文字つかうん?」

 

あー、これね、これはねー

一応慣習みたいなものでね、

本当はどんな文字でもかま

わないんだけど、まー、長嶋

さんの背番号が「3」みたいな

ものだよ ・笑・

で、「μ」の中身は長嶋さん・・・

ではなくて静止摩擦係数って

呼ばれているんだよ。

ま、どれくらいすべりやすいか、

すべりにくいかを決めている

大きさ(数字)だね。

例えば、この米袋を氷でできた

台の上に置いて、ツルツルの氷

の床の上で引っ張ったとするで

しょ?

そのときの「μ」は、だいたい

「0.03」くらいの大きさなんだ

って。

でね、氷の代わりに鉄製の台

に米袋を置いて、鉄の床の上

で引っ張ったとしよう。

このときの「μ」はだいたい

「0.7」くらいだそうだよ。

「0.03」と「0.7」、それに

さっき米袋を持ち上げて感じた

力(N)を頭において、もう一度

動き始めの力(F)

F=μ×N

を考えてごらん?

 

「Nがおんなじでも

ミューが小さいほうが

楽に動かせるなー (^^ 」

 

そうだねー。

鉄よりも氷で動かした方がよほど

楽に米袋を動かせるわけだね。

「μ」が小さい方がμ×N、つまり

「F」が小さくなるからだね。

 

逆に、米袋を簡単に動かしたく

(滑らせたく)なかったら、「μ」も

「N」も大きくすればいいわけだよ。

例えばゴム製の台にもっともっと

重い米袋を置いてゴム製の床の

上で引っ張れば、まー動かない

よね (^-^)

ではでは、ここで米袋を蒸気

機関車にすり替えてみよう。

 

機関車の重量と垂直抗力 レールとの摩擦 静止摩擦係数

レールは、機関車の重量を下から持ち上げて支えています。 持ち上げる力が一切働かなければレールは折れて機関車は地球の中心までめり込み続けることになります。

レールの上に蒸気機関車が

止まっています。

米袋のときと同じように、レール

は蒸気機関車の重量を「N」の

力で持ち上げて(支えて)います。

今、動き出す瞬間、ドライバー

(動輪)からレールへ車体を

引っ張ろうとする力であるトラク

ション(駆動力)がかかります。

トラクションを大きくしていき

車輪がレールとの摩擦力を超えて

空転する直前の力(米袋を引っ

張って動き出す直前の力と同じ)

を「F」とすると、やはり

F=μ×N

の関係が成り立つのです。

 

「N」は先ほども言いました、

蒸気機関車の車重をレールが

支える力であり、「μ」は車輪と

レールの摩擦の大きさになり

双方が鉄製であるとすると

「μ」は米袋のときと同じ「0.7」

程度になります。

 

「ミューは重さにはかんけい

せーへん数字なんやね」

 

そうそう、そこは大事だよね。

摩擦を起こしている材料の種類や

表面の状態で変わる滑りやすさを

表す数字(係数)なんだよ。

 

つまり、この式で計算される「F」

は空転する限界のトラクション

ということになり、これ以上の力

を車輪にかけてしまうと、空転し

てトラクションを失うことになります。

ですので、この「F」の大きい機

関車の方がパワー(蒸気圧)を

上げても空転しにくく扱いやすい

というわけです。

逆にどんなにハイパワーであっても

簡単に「F」を越えて坂で空転して

しまえば、機関車を前へ進ませる

ことにそのパワーが活かされず、殆ど

無駄な力持ちとなってしまいます。

 

「ほな、どうしたら力を

いかした運転しやすい

機関車になんの?」

 

F=μ×N の「F」を大きくできる

方法を考えればいいよね?

 

「ほな、

Nをおおきしたらええやん!」

 

そのとーり!

車重の大きな機関車のほうが

限界値の「F」が大きくなって

空転しにくくなるんだ。

だから、鉄道模型でもウェイト

をボディ内に詰め込んだり、

ボディ自体をダイキャストなん

かの重い金属で作るってわけだよ。

 

「μ はどんな機関車でも

鉄どうしでかわらへんから

大きできひんなー」

 

そこで秘密兵器の砂(サンド)を

使うのさ (^^

上り坂なんかで車輪に限界の「F」

より大きな力がかかりそうなとき、

サンドドームからレールの上に砂

を撒くことで、車輪とレールの間

の摩擦が上がって(μ を大きくする)

空転しにくくしているんだ。

模型では、車輪にゴム輪などを

つけて「μ」を高めることで、ウェ

イトの不足分を補ってるよね。

そして空転しない究極の方法は、

アプト式のようなギヤを使うこと

だろうね。

これはギヤが壊れない限り絶対

に滑らないから「ミュー」は無限

大だよ (^o^)/

 

「それは反則技やなー 笑

んーん、ほかにあらへんかなー?

あっ、機関車を重連にしたら

すべりにくなんのとちゃう?」

 

おっ、いいアイディアだけれど、

残念ながら重連にしても

車輪の滑りやすさ(空転限界)は

変わらないんだ。

重連を車重が2倍の一両の機関車

であると考えてみよう。

すると、F=μ×Nの「N」が2倍

(2N)になって限界も2倍に上が

るように思うんだけれど、車輪の数

も2倍になって一つの車輪にかかる

車重が半分になるから(N/2)、

結局「F」は、F=μ×(2×1/2)×N

となって一両のときと変わらないん

だよ。

 

「なーんや、そーなんや (-_-) 」

 

通常の鉄道運行では、常に限

界の「F」より小さな力で効率よく

列車を牽引することが求められる

わけですが、平地では特に意識

しなくとも、それはさほど難しいこと

ではないでしょう。

機関車の重量と垂直抗力 レールとの摩擦力 静止摩擦係数

坂ではレールから垂直に車輪を持ち上げる力(垂直抗力)が減少します。 レール方向に逃げる重量成分(下図の短い左下向き黒矢印)が坂を滑り落ちる力になります。 滑り落ちるのを防いでいるのが短い右上向き赤矢印のレールとの摩擦力です。 坂を急にしていくとこの短い黒矢印の大きさが大きくなってゆき、摩擦力の大きさを超えたとき、ブレーキをかけていても機関車は車輪を滑らせて坂を落ちてゆきます。

 

けれども一旦山岳地帯の上り坂

にさしかかるや、客車や貨物車の

車重が機関車を後ろへと引っ張

るため、機関士は平地より出力を

上げて、より大きなトラクションを

車輪に与えなければなりません。

また、機関車の車重も坂では

レール方向に逃げてしまい、「N」

も少し小さくなってしまいます。

このとき、空転限界の低い機関車

では、大きくしたトラクションが「F」

を超えてしまい車輪が空転し

速度を維持できなくなりますし、

維持するには、牽引する客車や

貨車の数を減らさなければならず

輸送能力が落ちることになります。

また、雨でレールが濡れて「μ」が

さらに下がることになれば機関士

は益々トラクションの制御に神経

をすり減らすことになるでしょう。

 

「山でも運転しやすい機関車

をつくるんはむずかしいこと

なんやねー (^^ 」

 

強力なパワーだけを求めると、

氷上のF1マシン状態になり

かねないからねー。

 

今日は、車輪が滑る(空転する)

ことについて、ちょっと掘り下げて

みました (^^

 

「米袋はすべらせて楽に運びたい

けど、機関車の車輪はすべらせたら

あかんのやねー (^^ 」

 

物にかかっている力は目に見え

ないけれど、いろんな力を効率

よくバランスさせながら能力を発

揮させていることがわかるよね。

 

次回は、そんなやっかいな坂の

勾配の話をしてみたいと思って

います。

 

それではみなさま、

また次回までさようなら (^0^)/