チャールズリバーをわたって  第4話

 

 

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・・・なんと心地よい瞬間なのだろう。

眼下の穏やかな水面上に浮かぶよ

うな感覚のまま、首をゆっくりと前

に向けると、正面から少し右手に

ビーコンヒルの金色に輝くいつもの

帽子屋根が見える。 古い建物が

密集していて全体が黒っぽくも

見えるこんもりとした丘の中に、

今日も発色よく居場所を主張して

いる。

そう、たまに味わうこの時間は

特別だ。

 

チャールズレガッタが行われる

木々に囲まれた静寂感ただよう

上流のハーバード近辺に比べると、

ここから見える両岸の風景とい

えばその殆んどが建物で、

プロムナード周辺の癒し空間を

除けばさほど特筆すべき雰囲気

の緑もなく、水も多少澱んでいる

のかもしれない。

 

休日などにハッチシェル前のヨ

ットクラブから湧き出てくる水面を

賑わす白いセールの群れも、今

はみなポールをむき出しにして

静かに帆を休めている。

正面に見えるミュジアムオブサイ

エンスのすぐその先は、港中心

のノースエンドと呼ばれる地区が

突き出している大西洋の海である。

橋の上から見る限り、流れている

様にはまるで見えないいわゆる

広い河口の入り口とでも言うべき

ハーバードブリッジの位置だ。

ハーバードへ通ずる幹線道路で

あるため橋幅が広くかなりの交通

量であるため、背後では絶え間

なく車が行き交い、橋上は決して

静かな環境とは言えない。

 

視界の右端で青く輝きながらそびえ

立つ一面ガラス貼りのジョンハンコ

ックタワーの威圧を多少感じつつ、

足元から目の前に広がるたおやか

とも思える水面と、その向こうに見え

る古い街並みの小山をぼんやりと

眺めていると、そんな騒音もなぜか

この風景と心境にベストマッチした

どこか遠い滑らかなBGMに聞こえ

てくる。

 

少し強めの風が何度も頬をかすめて

すり抜けるが、まるでそこには意識が

向かない。

何も考えていない様な空白の中で、

尚且つ一点を見据えているような

いないようなまどろみにも似た心の

波間に優しく漂っている感触だ。

本当に感覚が研ぎ澄まされている

ときというものは、ぴりぴりと緊迫

するのではなく、実は五感が同時に

無感覚になるほどのリラックスとある

種の集中が共存できているときなの

かもしれない。

 

ふと、この風景を見ている今の自分

のことを、この先何度となく思い起

こすだろうという幻のようにも思える

確信を感じた。 そして、そんな未来

の自分の意識に思いを飛ばせば、

今ここにいる過去の自分に思いを

はせる彼と、その瞬間、時間を越え

た一点でつながれるような気がした。

そんな、「時」から開放されうる「間」

に導いてくれるトリガー、それが

この風景となるのだろう。

 

ハッ、と何かのスイッチが入る

・・・もうそろそろ行く時間だ。

チャールズリバーを渡った向こう

岸、そこには今の自分にしか存在

しない、今が刻々と流れる「時」の

場(フィールド)が広がっている。

 

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